左利きユーザーだからといって、必ずしも「左利き専用の分割キーボード」が必要なわけではありません。それよりも重要なのは、マウスやトラックパッドをどこに置くか、テンキーをどちら側に配置するか、よく使うショートカットをどちらの手で操作するか、そして無理な手の移動を増やさないようにキーマップを調整できるかどうかです。
「左利き向けキーボード」という言葉には、いくつか異なる意味があり、それがキーボード選びを分かりにくくしている原因のひとつです。左利きの人でも、文字入力には両手を使います。マウスを左手で使う人もいれば、右手で使う人、作業によって左右を使い分ける人もいます。テンキーを左側に置きたい人もいれば、そもそもテンキーをほとんど使わない人もいます。
分割キーボードでは、キーボード全体がひとつの固定された長方形ではないため、こうした問題への考え方も変わります。左右のキーボードを、マウスやトラックパッド、テンキー、体の中心線、あるいは作業内容に合わせて個別に配置できます。こうした自由度は、「左利き向け」として販売されている専用キーボードを選ぶこと以上に、実際の使いやすさにつながる場合があります。
この考え方は、CCOHSのキーボードに関するガイドラインにも見られます。CCOHSでは、左利きユーザーの場合、テンキーが左側にあるキーボードや独立したテンキーが使いやすい場合があるとしています。一方、基本的な配置については、キーボードやポインティングデバイスを無理なく手の届く位置に置くことを重視しています。つまり、左利きかどうかによってデスク上の配置は変わっても、アルファベット配列そのものを別のものにする必要があるとは限りません。
「左利き向け」ではなく、まず使い方から考える
ソフトウェアでキー配置を変更する前に、まずデスク上で必要な配置や操作を整理しましょう。「左利き向け」というラベルよりも、まず確認したいのは次の3つです。
| 確認ポイント | 何が決まるか | まず試すこと |
|---|---|---|
| マウスはどちらの手で使いますか? | マウスやトラックパッドのために、どちら側にスペースを確保する必要があるかが決まります。 | まずマウスの位置を決め、それに合わせてキーボードを配置します。 |
| 数字を入力する機会はどのくらいありますか? | 独立したテンキーを左に置くか、右に置くか、そもそも必要かを判断する材料になります。 | よく使うデバイスを、より手の届きやすい位置に置きます。 |
| どのショートカットで作業の流れが止まりますか? | キーをリマップする価値があるかどうかを判断できます。 | 繰り返し使う操作のうち、実際に使いにくさを感じるものだけを調整します。 |
左利きユーザーに専用の分割キーボードは必要なのか?
左利きだからという理由だけで、専用の分割キーボードが必要とは限りません。一般的な完全分離型の分割キーボードでも、左右の配置や周辺機器の位置を自分の使い方に合わせて調整できる場合があります。
「左利き向けキーボード」という言葉は、一般的なキーボードのテンキーを右側ではなく左側に配置した製品を指すこともあります。左手で数字を入力する人には便利ですが、これは分割キーボードとは別の問題を解決するためのものです。分割キーボードは左右のキー領域そのものの位置を変えられるのに対し、左側テンキーは数字を入力する位置を変えるものです。
分割キーボードでは、アルファベット配列を左右反転させることよりも、左右を独立して配置できることや、キーをリマップできることのほうが重要です。使い慣れたQWERTY配列はそのままに、マウスやトラックパッド、テンキー、よく使うショートカットに合わせて、デスク上の配置を調整できます。
まずはマウスの位置から決める
まず、マウスやトラックパッドを普段使う位置に置き、その位置に合わせてキーボードを配置します。
OSHAのマウスなどのポインティングデバイスに関するガイドラインでは、ポインティングデバイスをキーボードの近く、無理なく手の届く位置に置くことを推奨しています。また、人によっては左右の手を使い分けることも選択肢のひとつとしています。大切なのは、どちらの手を使うのが「正しい」かではなく、その配置によって何度も腕を伸ばす必要がないかどうかです。
右手用・左手用など、片手向けに設計されたマウスを使う場合は、実際に使う手に合ったものを選びましょう。左右の手を使い分けるなら、左右対称のマウスのほうが使いやすい場合もあります。OSHAのガイドラインでも、片手用に設計されたマウスを反対の手で使わないよう注意を促しています。
では、代表的な3つの配置パターンを見ていきましょう。
マウスを左側に置く場合
左手でマウスを使う場合は、まず普段使う位置にマウスを置いてから、左右のキーボードの間隔を調整します。マウスは左側のキーボードのすぐ外側に、ほぼ同じ高さで置くのが基本です。デスクが狭い場合は、キーボード全体を大きく右へずらすのではなく、左右の間隔を少し狭めたり、左側のキーボードをやや内側に寄せたりして調整するとよいでしょう。
よくあるのは、マウスをデスクの左端に置いたままにしてしまうことです。分割キーボードなら、左側のキーボードが一体型キーボードほど横幅を取らないため、マウスを必要以上に遠くへ置かずに済みます。
マウスやトラックパッドを中央に置く場合
マウスやトラックパッドを中央に置く配置は、文章編集やデザイン、ブラウジングなど、タイピングとポインター操作を頻繁に切り替える作業では、特に使いやすい場合があります。左右のキーボードの間に自然なスペースができるため、マウスやトラックパッドをキーボードの外側ではなく、その中央に置くことができます。
CCOHSでは、ポインティングデバイスを中央に配置することを、タイピングとマウス操作の間で手を移動する距離を減らす方法のひとつとして紹介しています。CCOHSのマウス選びに関するガイドは分割キーボードを対象にしたものではありませんが、この考え方は、中央の間隔を調整できる分割キーボードにも当てはめやすいでしょう。
マウスを右側に置く場合
左利きでも、学校や職場、家庭でそう使うことに慣れていて、マウスは右手で操作する人もいます。それが普段の使い方なら、その習慣に合わせてデスクの配置を考えれば十分です。デスクをいかにも「左利き向け」に見せるためだけに、無理にマウスを左側へ移すメリットはありません。
独立したテンキーはどこに置く?
ここは、左側テンキーと分割レイアウトが混同されやすいポイントです。
CCOHSでは、左利きユーザーの場合、テンキーが左側にあるキーボードや、独立したテンキーを好む場合があるとしています。独立したテンキーなら、どちらか一方に固定する必要がなく、作業内容に合わせて位置を変えられるのが利点です。
数字入力を主に左手で行い、マウスを右手で使う場合は、テンキーを左側のキーボードのすぐ外側に置くことができます。一方、マウスもテンキーも左手で使う場合は、両方を左側にまとめればよいとは限りません。使用頻度の高いデバイスを手元に置き、使用頻度の低いデバイスは、よく使うデバイスを手元に置ける位置へ移動させてもよいでしょう。
作業内容によって使い分ける場合は、独立したテンキーを必要なときだけデスクに出す方法もあります。すべての作業をひとつの固定レイアウトに合わせるより、そのほうがデスクまわりをすっきり保ちやすいでしょう。
マウスを使う手に合わせてショートカットをリマップする
物理的な配置だけで、すべての問題が解決するわけではありません。もうひとつ考えたいのが、マウスやトラックパッドを操作している間に、繰り返し使うキーボード操作をどちらの手で行うかです。
標準的なQWERTY配列では、Ctrl/CommandとZ、X、C、V、A、Sなどを組み合わせる代表的なショートカットは、左手側のキーを使うものが多くあります。右手でマウスを使う場合は自然な組み合わせですが、左手でマウスを使う場合は、同じ左手でポインター操作とショートカット操作の両方を行う場面が増えます。
プログラマブルな分割キーボードなら、アルファベット配列そのものを左右反転させなくても対応できます。たとえば、コピー、ペースト、取り消し、やり直し、保存、アプリ固有のコマンドなどを右手側のレイヤーに配置する方法があります。標準のショートカットはそのままにして、まとまったポインター操作が必要なときだけマウスを使う方法もあります。
Elytraでは、公式マニュアルで、Vialを使ったキーのリマップ、レイヤー、マクロ、コンボに対応していることが案内されています。大切なのは、一般的な「左利き向け」のキーマップだからという理由だけで全体を作り替えるのではなく、繰り返し使う操作の中で、実際に使いにくさを感じるキーだけを調整することです。
Enter・Backspace・修飾キーの配置を変える
Enter、Backspace、Shift、Ctrl、Command、Alt、Optionといったキーは、人それぞれの操作習慣が表れやすい部分です。左手でマウスやトラックパッドを使うことが多い場合は、よく使う編集操作のひとつを右手側に移すことで、左手をマウスとキーボードの間で行き来させる回数を減らせることがあります。ただし、修飾キーを一度にすべて移動すると、かえって操作が分かりにくくなりがちです。
試しやすい方法は、元のキーを移動するのではなく、同じ機能を別の位置にも追加することです。標準のキーはそのまま残し、Backspace、Enter、修飾キーなどをレイヤーや使用頻度の低いキーにも割り当ててみます。普段の作業でその追加キーを自然に使うようになった場合だけ、その設定を残すとよいでしょう。
ゲーム用には右手側のレイヤーを別に用意する
左手でマウスを使うゲーム環境は、オフィスワークとは別のセットアップとして考える必要があります。一般的なWASD配置を前提にするのではなく、移動キーやアクションキーを右側のキーボードに移したほうが使いやすい場合があります。
プログラマブルな分割キーボードなら、IJKLや矢印キー周辺、あるいは右手で使いやすい別のキー群を中心に、ゲーム専用のレイヤーを作ることができます。よく使う修飾キーも、右手から無理なく届く位置に配置しましょう。また、マクロや複数操作を組み合わせた入力に頼る前に、そのゲームや競技環境のルールを確認しておくことが大切です。
自由に配置できても、手を伸ばす距離は増やさない
完全分離型の分割キーボードなら、片側の位置にもう片側を合わせる必要はありません。そのため、体の正面でタイピングできる位置を保ちながら、左側のマウス、中央のポインティングデバイス、独立したテンキーのためのスペースを確保できます。
左側にマウスを置く場合は、マウスを手元に置いたまま、左側のキーボードを少し中央寄りに動かせます。中央にトラックパッドなどを置く場合は、その周囲に合わせて左右のキーボードの角度を調整できます。数字入力が多い作業では、他のデバイスを必要以上に外側へ押しやることなく、テンキーを置ける分だけ片側のキーボードを動かすこともできます。
自由に配置できるからといって、すべてのデバイスを左側に集めてしまうと、かえって使いにくいデスクになることがあります。
左側にマウス、テンキー、ショートカットパッド、スマートフォン、ノートなどを次々と置いていくと、よく使うデバイスまで体から遠い位置に押し出されてしまうことがあります。使用頻度の高いデバイスは、できるだけ無理なく手の届く位置に置きましょう。たまにしか使わないものは少し離れた場所に置いたり、必要なときだけデスクに出したりする方法もあります。
OSHAのキーボードに関するガイドラインとポインティングデバイスに関するガイドラインでは、よく使う入力デバイスを、肘を体の近くに保ちやすく、手首を大きく曲げずに操作できる位置に置くことを重視しています。分割キーボードは配置の自由度を高めてくれますが、最終的にはデスク全体として無理のない配置になっていることが大切です。
左側のキーボードの角度にも注意しましょう。少し外向きに角度をつける程度なら使いやすい場合がありますが、マウスを左端に遠く置いたまま、左側のキーボードを大きく外向きに回転させると、結局は別の場所へ腕を伸ばす距離が増えてしまうことがあります。キーボードの角度だけでなく、実際に腕をどれくらい動かす必要があるかも確認してみてください。
一度に変えるのはひとつずつ
マウスを使う手、左右のキーボードの間隔、それぞれの角度、ショートカット用のレイヤー、テンキーの位置まで一度に変えてしまうと、どの変更が使いやすさにつながり、どの変更がかえって使いにくさを生んだのか判断しにくくなります。
より分かりやすく試すなら、次の順番がおすすめです。
- まずはデフォルトのキーマップをそのまま使い、マウスを普段使いたい位置に置く。
- そのマウスの位置に合わせて、左右のキーボードを調整する。
- ショートカットを変更する前に、その配置で普段どおりの作業をしてみる。
- それでも使いにくいと感じる、よく使う操作をひとつだけリマップする。
- マウスとキーボードの基本配置が決まってから、必要に応じてテンキーを追加したり位置を変えたりする。
3つのデスク配置例
実際の配置を考えるうえで、まず試しやすい3つのパターンを紹介します。マウスやトラックパッドを使う手と、数字入力の頻度に合わせて調整してみてください。
配置とVialリマップを実際に見てみる
The Trending 60% Low-Profile “Split & Wireless” Keyboard: ElimKeys Elytra
YouTube • 日本語の独立レビュー • 動画を見る
このElytraの独立レビューでは、左右のキーボードの間隔や角度を変えた配置に加え、Vialのキーマッピング画面も確認できます。なお、動画内のマウス配置はレビュアー個人の使い方によるものであり、本記事で推奨する配置例として紹介しているものではありません。
Elytraがこのセットアップに合う理由
Elytraがこのセットアップに適している理由のひとつは、左右を独立して配置できるワイヤレス分割設計と、使い慣れた63キーのロウスタッガードQWERTY配列を組み合わせている点です。現在の製品ページでは、このキー配列とワイヤレス分割設計が紹介されています。Green Keysの実機レビューでも、馴染みのあるロウスタッガード配列と左右を独立して配置できる点が取り上げられており、デスク上の配置を変えるために、まったく異なるキー配置に慣れ直す必要はありません。
さらに、Vial対応によって、使い方に合わせた調整も可能です。よく使うショートカットや修飾キー、Backspace、Enter、ナビゲーションキーなどは、実際の作業で不便を感じたときに、別の位置に追加したり割り当て直したりできます。左利き向けの固定キーマップを前提としているわけではないため、すでに自然に使えているキーまで無理に変更する必要はありません。
左利きユーザー向け:分割キーボードの最終チェックリスト
| 確認項目 | 自分の環境で確認すること |
|---|---|
| ポインティングデバイスの位置 | マウスやトラックパッドは主にどちらの手で使いますか? タイピング位置を体の中心からずらさず、手の届きやすい位置に置けていますか? |
| 中央の間隔 | マウスやトラックパッドを中央に置く場合、左右の間隔はデバイスに必要な幅だけに収まっていますか? |
| テンキー | そもそもテンキーは必要ですか? 必要な場合、よく使うデバイスを手元に置けるのは左右どちらですか? |
| よく使うショートカット | Ctrl/Commandを使う定番ショートカットのたびに、マウスを使う手をキーボードへ戻す必要がありませんか? |
| キーの追加 | Backspace、Enter、修飾キーなどを反対側にも追加すると、基本配列を変えずに操作しやすくなりますか? |
| 左右の角度 | 左右それぞれの角度を変えても、マウスや外側のキーへ手を伸ばす距離が増えていませんか? |
| ひとつずつ試す | 新しい変更を加える前に、それぞれの調整を普段の作業で十分に試しましたか? |
まとめ
左利きだからという理由だけで、専用の分割キーボードが必要とは限りません。重要なのは、マウスやトラックパッドをどちらの手で使うか、数字入力をどの程度行うか、そしてよく使うショートカットをどちらの手で操作するかに合わせて、デスク全体を整えることです。
完全分離型の分割キーボードなら、左右ユニットの位置をマウスやテンキーに合わせて個別に調整できます。ただし、自由に動かせること自体が目的ではありません。よく使うデバイスを手元に置き、必要なキーだけを選択的にリマップすることで、その自由度を実際の使いやすさにつなげることが大切です。
Elytraは、その考え方を試しやすい例のひとつです。左右を独立して配置できる構造とVialによるリマップに、見慣れたロウスタッガードQWERTY配列を組み合わせています。まずはポインティングデバイスの位置を決め、物理的な配置を整えたうえで、繰り返し使いにくさを感じるキーだけを少しずつ調整していくとよいでしょう。
参考資料・関連リンク
ワークステーションのエルゴノミクスに関する資料
- CCOHS — キーボードの選び方と使い方
- CCOHS — コンピューターマウスの選び方と使い方
- OSHA — コンピューターワークステーション:キーボード
- OSHA — コンピューターワークステーション:ポインティングデバイス/マウス
